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膝クリニック チーフ
熊谷 研

​はじめに

 現在、医療の発達に伴い平均寿命は年々長くなっていますが、年齢を重ねるにつれ足腰にトラブルを抱える方が増えてきます。自分で思うように動けなくなり、介護を必要とする方も多いのが現状です。立つ、歩く、座る、などにかかわる膝の働きが保たれることは、全身の健康状態を保つ上でも重要です。また近頃は、何歳になってもスポーツ活動やレクレーションを楽しみたいという方が増えています。そのような方々のニーズに応えるのが我々の仕事と考えています。

 中高年になると、膝の痛みや動きにくさにお悩みの方も多いと思われます。変形性膝関節症と呼ばれる、膝関節の軟骨がすり減ったり傷んだりした状態がそのような症状を引き起こしていることがしばしばあります。当クリニックではこれまでに多くの変形性膝関節症の方の診療を行ってきました。特に、適応のある方には人工関節ではなく自分の関節を生かす治療である骨切り術をお勧めしており、長年の歴史と実績がございます。またその他、膝の痛みや動きにくさの原因となる疾患を中心に診療を行っています。

当クリニックで扱う代表的疾患

  • ​変形性膝関節症

  • 特発性膝骨壊死(大腿骨内側顆部骨壊死)

  • 膝蓋骨脱臼・亜脱臼

  • 膝関節周囲骨折

  • その他膝関節疾患

​主に行なっている手術治療について

 運動療法、薬物療法、装具療法など、手術以外の保存治療と呼ばれる治療を行ってきたが十分な効果が得られず、疼痛のため日常生活が制限されている方が適応となります。変形性膝関節症や特発性膝骨壊死に対する治療は、骨切り術と人工関節置換術に大きく分けられます。

 手術治療と聞くと抵抗感のある方も多いと思います。しかし、保存治療にくらべ、関節の痛みを取り除き、日常生活上の動作に伴う不便さを軽減する効果は高いです。そのため近年、手術を受けられる方の数は増加傾向にあります。

高位脛骨骨切り術/大腿骨顆上骨切り術

 我が国では、膝の内側の関節軟骨が傷むことによる内側型変形性膝関節症が多く、また特発性膝骨壊死でも膝の内側に病変部が存在することが多いです。内反変形(O脚)が生じるとより内側に体重の負荷がかかり痛みの原因となります。膝の骨切り術とは、膝周囲の骨を切って角度を変え、膝の内側に体重がかかりにくいX脚に矯正することで、正常な軟骨や半月板が残っている外側の関節で体重を支えることができるようにする手術になります(図1)。

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図1 骨切り術による下肢アライメントの変化

左(術前)はO脚で、水色の線が示す体重のかかる方向を示すラインも膝関節の内側に偏っている。

右(術後)は軽いX脚となり、体重のかかる方向を示すラインは膝関節の外側に移動し、膝関節内側の軟骨にかかる負担が減少している。

 骨切り術は一つの手術法ではなく、様々な方法があります。例えば骨切りの部位により、脛骨(すねの骨)側で行う高位脛骨骨切り術(HTO)と大腿骨(太もも)側で行う大腿骨顆上骨切り術があります(図2)。また、骨を切る方向や、角度を変える方法にも複数の種類があり、個々の患者さんに合わせて適切な手術法を行うようにしています。

 いずれの術式も脚の形をO脚(内反)からX脚(外反)に変え、体重が膝の内側に集中しないようにするという目的は同じです。これらの術式の特徴は、関節内には手をつけず、すべて関節外で手術を行うことです。関節そのものは自分の元々の体そのままですので、例えば人工関節で生じるような動きの制限を必要とすることはありません。患者さんによっては術後に正座も可能となります。

 また、人工物である人工関節のように耐久性を心配する必要がないため、農作業などの重労働を行う方やスポーツを楽しみたい人に向いている手術になります。いずれの術式も「骨を切る」ことを伴いますが、術後早期から体重がかけられるように固定(金属のプレート)などが工夫されており、術後は約2週間で退院が可能です。

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図2 膝関節周囲の各種骨切り術

OWHTO:脛骨(すねの骨)の内側から骨切りし、人工骨を挟み込んで骨の角度を変えている
CWHTO:脛骨の外側から骨切りし、そちら側の骨を一部取り除いて骨の角度を変えている。
DLO:膝関節の上下で骨切りを行い、角度を変えている。

人工膝関節置換術

 変形性膝関節症、関節リウマチ、膝骨壊死などによって変形・破壊が進行した患者さんに行われる手術です。骨切り術などの関節温存手術の適応がない症例や、高齢者で早期の回復を望まれる症例で適応になります。変形の程度や関節の状態に応じて、関節の内側または外側だけを置換する人工膝関節単顆置換術(UKA)と関節全部を置換する人工膝関節全置換術(TKA)を選択します。

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図3 左:人工膝関節全置換術(TKA) 右:人工膝関節単顆置換術 (UKA)

 手術は大腿骨と脛骨を人工膝関節の形状に合わせて骨切りし、金属性のインプラントを設置します。優れた除痛効果、日常生活動作の改善が安定して得られる手術です。当科では以前よりPatient Specific Instruments(PSI)を用いて手術の精度をあげ、早期の機能回復を目指しています。2020年11月より手術支援ロボットを導入しており、より精度の高い手術が行えるようになりました。

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図4 手術支援ロボティックアームシステム

当クリニックを受診される方へ

 膝のお悩みを抱えて当院に受診された方は、すでに紹介元などの医療機関で治療を行っても十分な効果が得られていない状態の方も多いです。そのような方々の多くは、手術治療が必要な状態にあります。薬やリハビリテーションでの治療をある程度行っても症状の改善がみられない場合には、膝クリニックの受診を通して手術治療についての相談をさせていただき、個々の状況に応じて最適な治療法を選択します。

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